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 おはようございます。
さあ、いよいよ5月も最終日、明日から6月です。大阪は何かパッとしない変なお天気ですが、心は明るく前向きに(笑)、今日も一日過ごしたいと思います。さて、先々週そして先週と人生の最期についてのお話をご紹介させて頂きましたが、今朝ももう一つ、「私も準備しとこうか?」(笑)

と思った、そんなお話をご紹介させて頂きたいと思います。

『死とユーモア 子供たちのために残したもの』

アルフォンス・デーケン
上智大学名誉教授
「死への準備教育」提唱者

 私は30年間上越大学での死の哲学を教えてきました。
日本にやってきたのは55年前のことでした。

中略

 私はよく「死とユーモアは関係あるのですか?」と聞かれます。
その時、私はいつもユーモアの大切さを感じたある話をお伝えします。

私が大学院生の時、友だちのお母さんが亡くなりました。
11人の子どもを育てあげた末の大往生でした。そのお母さんが亡くなる間際のお話です。

家族が病室に集まり、神父である長男が「母のために祈りましょう」とカトリックのミサを始めました。ミサが終わると、それまで意識のなかったお母さんが目を覚まし、「祈ってくれてありがとう。ところでウイスキーを飲みたいわ」と言いました。

 家族は、それまで全くウイスキーを口にしたことのないお母さんが「ウイスキーを飲みたい」と言ったので驚きました。
ウイスキーを注いだグラスを持っていくと、お母さんはそれを少し飲み、「ぬるいから少し氷を入れてちょうだい」と言いました。

 氷を入れたグラスを渡すと、お母さんは「おいしいわ」と言って全部飲み干してしまいました。
お母さんは次に、「タバコを吸いたい」と言いました。

「医者が、体に悪いからタバコを吸ってはいけないと言っていましたよ」と長男が言うとお母さんは、「死ぬのは医者ではなく私です」と答えました。

 タバコを吸い終わるとお母さんはみんなに感謝し、「天国でまた会いましょう」と言って横になり、そのまま息を引き取りました。

 後日、家族たちは「あの死に方はいかにもお母さんらしかったね」と言いながらみんなで笑いました。この話は、「亡くなる直前の患者にウイスキーとタバコを勧めましょう」ということではありません(笑)。

11人の子どもを育て上げたお母さんの最後の悩みは、きっと「自分はもう子どもたちのために何もしてやれない」ということだったと思います。でも、そんなお母さんにもできることが1つありました。それが「子供たちのために笑い話を残す」ということでした。

 それはお母さんの、大切な人たちへの思いやりであり、愛です。
私はそこに人間らしい生き方、人間らしい死に方を感じたのです。

(2016年6月27日号より)

【日本講演新聞 2025年5月19日号 未来へ過去を転載して より】